中田工芸株式会社 www.nakatakogei.com

Category | Works

Credit

Director : Yuki Ikezoe
Designer : Yuri Takeuchi
Engineer : Taku Matsumura
Photo : Knot photography

受け継ぎ、そして進む

こんにちは、ディレクターの池添です。
今回は、兵庫県豊岡市で木製ハンガーを製造されている中田工芸株式会社様(以下、中田工芸様) のロゴとコーポレートサイト制作についてご紹介します。

中田工芸様が80年にわたり受け継がれてきた職人の技と姿勢は、国内外のブランドから厚い信頼を寄せられています。

長い歴史の中で育まれた「これまで」と、挑戦と進化を続ける「これから」。 その間にある、言葉にはしきれない想いを、丁寧にすくい上げてかたちにすることが、このプロジェクトの出発点でした。

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2両の電車に揺られて

お問い合わせフォームに記載された“豊岡”の文字を見た瞬間、思わず手が止まりました。私の地元のすぐ近くで、最寄り駅は高校時代に毎日通っていた駅のすぐそば。「こんなところでつながるんだ」と、胸が熱くなりました。

神戸から豊岡へ向かうローカル線は、2時間に1本。
車窓の風景はゆるやかに街から山へ、山から田園へと風景を変えていきます。
2両編成の車内には、あの頃と変わらない学生たちの声。
窓の向こうに広がる景色も、記憶の中とほとんど同じでした。

「まさか仕事を通じて、こんな形で帰ってくるとは……」そんな気持ちを抱きながら向かいました。

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世界一より前にある、大切なこと

中田工芸様が掲げるのは、「世界一のハンガーブランドをつくる」という大きなビジョンです。しかし社長が最初に語られたのは、その手前にあるもっと根源的な想いでした。

「いいハンガーを作るには、まず“人”が幸せでなければならない」

この言葉を聞いた瞬間、今回のプロジェクトの方向性がふっと輪郭を帯びました。中田工芸様が大切にしているのは、ただ技術を磨き続けることではなく、働く人が誇りを持ち、安心して前を向ける環境を整えること。その考え方こそが、ビジョンへ近づけていく土台になっているのだと感じました。「ハンガーをつくる会社」である以前に、「人を大切にする会社」でありたい。その想いに触れたとき、伝えるべきテーマは自然と“人”へと結びついていきました。

つくる人がいて、
つなぐ人がいて、
支える人がいる。

それらすべてが、最終的に「ハンガー」というひとつの形に結晶化していく。その本質をどうすればまっすぐに伝えられるか。その問いを胸に、制作が始まりました。

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円が語る、会社の姿勢

ロゴ制作は、社長と何度も対話を重ねながら進めていきました。ロゴもWebサイトも、これから先、中田工芸様がどう見られていきたいか。その視点を揃えていくことが何より大切だと感じていたからです。

打ち合わせの中で社長が示してくださったキーワードは、「円」でした。

円には、正しさ、前向きさ、寛容さ、公正さ、さまざまな価値が重なり合っています。それはまさに、中田工芸様が長い年月をかけて育んできた姿勢そのもの。そこで、会社の在り方を象徴するロゴという方向性が固まっていきました。

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最終的に生まれたのが、2つの楕円が重なり、ひとつの正円になるロゴマークです。

人には良い面も悪い面もある。組織もまた同じで、互いを補い合いながらひとつの力になる。中田工芸様が「製造部」と「営業部」、ふたつの力で支え合っている構造にも自然と重なりました。

柔らかさと、折れない芯。
個と組織。
歴史と未来。
その重なりを円という形に託したロゴになりました。

空気をすくい上げる

サイト制作では、写真が担う役割はとても大きなものになります。中田工芸様の本質を伝えるには、説明よりも空気で伝えることが欠かせない。まずは外の撮影場所を探すために、何度もロケハンに出かけました。地元という利もあり、休日に実家へ戻るたびに車を走らせ、歩き、Google Map を開いてはまた歩き直す。「中田工芸様らしさを、どこで写せるだろう」そう自問しながら、景色の温度や空気感を確かめるように進めた時間でした。

その後、フォトグラファーKnot photographyの東さんとともに工場へ伺いました。そこで最初に感じたのは、意外な“静けさ”でした。木材を削る音は確かに響いているのに、騒がしくない。淡々と、しかし丁寧に、一定のリズムで作業が続いていく。そこには慌ただしさとは異なる、長い年月が育てた整った動きがありました。職人さんの手つき、道具の置かれ方、木肌に触れるときの柔らかいしぐさ。それらを見ているだけで、「ああ、この会社は人の姿勢が商品に宿っているんだ」と自然とわかるほどでした。

写真は、その空気を余すことなく映し出してくれました。制作全体のテーマは、「働きやすさ」と「働きがい」。その本質を、写真が支えてくれました。

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1階と2階の間から撮影した、私だけがひそかに「特等席」と呼んでいる場所。
ここでいつも打ち合わせをさせていただいていました。
そして社長は、どの角度から撮っても“絵になる”不思議な方です。

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撮影のたびに資材を動かしていただき、立ち位置まで完璧サポート。
職人さんは撮影にも優しい。

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どんな無茶ぶりにも満面の笑顔で応えてくれる稲葉さん。
写真フォルダ内の「安定感」ランキング、堂々の1位。

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「一番かっこよくハンガーを持ってください」とお願いしたら、100点満点のかっこよさで返してくれました。

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数本のハンガーをお借りして、別日に東さんのスタジオで撮影。
やはりハンガーにオーラが漂ってます。

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田中さんしかつくれない特別なハンガー。
削るたびにスタッフ全員から「お〜〜〜!」が漏れる現場。
もちろん私も合唱団の一員でした。

佇まいをデザインする

Webサイトで大切にしたのは、ハンガーを主役にしすぎないこと。どんな人が、どんな想いを抱き、 どんな時間を積み重ねて、一本のハンガーが生まれていくのか。その人の温度が自然と伝わるような写真を中心に構成しています。 デザインでは、しなやかさと余白を大切にしました。 決して飾りすぎず、しかし淡白にもならない。 企業としての佇まいと、人の息づかいが同時に感じられるように。静かな強さを持つ中田工芸様だからこそ、 その魅力を素直に受け止められるトーンを心がけました。

キャッチコピーは、
Beyond Hangers, Beyond Borders.

社長との対話の中から生まれた言葉です。 ハンガーは洋服をかけるための道具にすぎない。それでも、数えきれないほどの出会いを運び、世界中へ導いてくれた。その言葉を聞いて、ハンガーの先にある未来を意識した広がりのあるコピーをご提案させていただきました。

驚きの連続

今回のプロジェクトでは、理解が追いつかないできごとが本当にたくさんありました。その中でも特に印象に残っているのが、次の2つです。ひとつは、英国王室へ特注の輪島塗ハンガーを献上されたこと。もうひとつは、ロンドンでハンガー職人の一日を描いたショートフィルム(SHOKUNIN)が上映されたことです。どちらもあまりにスケールが大きく、理解できずにいる私を社長は終始ニコニコされていました。

私は日本初上映となる経営方針発表会にご招待いただきました。海外のプロによる撮影・編集に加え、アフレコまで施された圧倒的な完成度で、映像の賞を取れるのではと思うほど。クオリティーの高さにただただ息をのみ、気づけば「もう一度観たい」と心の底から思っていました。

極めつけは、撮影最終日のサプライズ。私の名前が刻まれた特製ハンガーをいただいたことです。手にした瞬間、木の柔らかな感触とともに、「人を想ってものをつくる」という中田工芸様の姿勢が手のひらからまっすぐ伝わってきて、言葉が出ないほど嬉しかったです。

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実は生まれたばかりの娘の名前入りハンガーまでいただき、危うく泣きそうになったところを必死の笑顔で抵抗してました。

さいごに

このプロジェクトを通して強く感じたのは、つくる人の姿勢は、必ずアウトプットに宿るということでした。中田工芸の皆さんの、素直で誠実で、まっすぐな姿勢がハンガーのあたたかさとなり、ブランドの信頼につながっている。Web制作も同じで、「どうつくるか」以上に「どう向き合うか」が、最終的に大きな差になるとあらためて感じました。サイトを訪れた方に、このプロジェクトの温度がそのまま届くように。お客様の想いにも、自分自身の仕事にも真摯に向き合い、いただいた熱量以上で返したい。その気持ちで最後まで走りきりました。

80年以上続く会社のこれからの歩みの一部に関われたこと。そして、自分の原点に近い場所で仕事ができたこと。どちらも深く心に残る経験でした。ものをつくる人がいて、支える人がいて、想いをつなぐ人がいる。その積み重ねが企業の未来を静かに形づくっていく。その中の小さな一角に、willstyle の仕事が寄り添えているのなら、これほど嬉しいことはありません。

あらためまして海外出張でお忙しい中、何度もお時間をいただきありがとうございました。このサイトが、中田工芸様の魅力をより多くの方に届け、皆さまの姿勢がさらに多くの心に光を灯しますように。

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